筋トレの動作スピードと筋肥大の関係|スロトレは効果なし?

筋トレのスピード

トレーニングフォーム以外に重要なポイントってあるの?

ウェイトの挙げ方と聞くとまずはトレーニングフォームを思い浮かべるかもしれません。
フォームはトレーニング効率を左右するため、非常に重要で様々なwebサイトや動画で正しいフォームが紹介されています。

そこであまり言及されることが無いが非常に大事なポイント。それがウェイトを挙げるスピードです。
このページでは筋肉が力を発揮する局面の違いについて説明した上で、効果的な挙げ下ろしの仕方について説明します。

スロトレの筋肥大効果についても触れるよ

1 筋肉が力を発揮する局面

まずウェイトの挙上スピードと筋肥大の関係について解説するに当たり必要な前提知識として筋肉の収縮パターンについて解説しておきます。
筋肉が力を発揮する収縮の局面は大きく以下の3つです。

コンセントリック収縮
アイソメトリック収縮
エキセントリック収縮

筋肉の縮み方にそんな何個も種類があるの?

収縮というと何となく筋肉が縮むイメージがあるので、違いが分かりにくいかもしれません。
細かい話ですが、収縮とは縮むことだけじゃなく筋肉が力を発揮しようと活動すること全般を指します。

みんなが想像する筋肉がギュっと縮むことは短縮って言うよ

トレーニング種目はその多くがコンセントリック収縮とエキセントリック収縮の局面から成り立ち、アイソメトリック収縮は単独の種目であることが多いです。

①コンセントリック収縮

コンセントリック収縮は短縮性収縮とも呼ばれ、筋肉が力を発揮しながら実際に短縮する動きです。
ウェイトを「挙げる」「引く」などトレーニングのメインとされる局面がコンセントリック収縮に当たります。

トレーニング種目の中でメイン動作のはずですが、意外にも発揮する力は3つの局面の中で最小です。

②アイソメトリック収縮

アイソメトリック収縮は等尺性収縮とも呼ばれ、筋肉が力を発揮するものの短縮も伸張もせず、長さが変わらないまま力を発揮する動きです。
壁などの動かないものを押す動作中やボディビルやフィジークなどのポージングがそれに当たります。

発揮する力はコンセントリック収縮よりは大きく、エキセントリック収縮よりは小さい中間的な値です。

アイソメトリックの要素を入れるためにトップで静止するって方法もあるよ!

③エキセントリック収縮

エキセントリック収縮は伸張性収縮とも呼ばれ、筋肉が力を発揮するもののウェイトなどの外力が大きく筋肉が引き伸ばされる動きです。
ウェイトを「下ろす」などトレーニングのメインではないネガティブ局面がエキセントリック収縮に当たります。

発揮する力は3局面の中で最大です。

だからネガティブトレーニングを重視する人がいるんだね!

2 筋肥大に効果的な動作スピード

結論から先に言うと、ベストな挙上スピードはトレーニングの狙いによって異なることになります。
以下で「①ゆっくり挙げる効果」「②速く挙げる効果」「③下ろす時のスピード」について順番に解説していきます。

2-1 ゆっくり挙げる方が効果的?

まず筋肥大はトレーニング負荷というストレスに対する防御反応(ストレス応答)であるというのが筋肥大を目指す筋トレの基本です。
そしてそのストレスの種類には大きく以下の3つがあります。

①メカニカルストレス = 筋肉に大きな負荷がかかる
②マッスルダメージ = 筋肉に微細な損傷が起こる
③メタボリックストレス = 過酷な環境で筋肉が動作する

このうち特に動作スピードが関係するのは、①メカニカルストレス③メタボリックストレスです。
これら2つの刺激の強化を狙う場合、なるべくゆっくり動作するのが効果的と考えられます。

2-1-1 アイソメトリック収縮に近付ける

各収縮の局面について説明したところで発揮する筋力の大きさについて触れましたが、これは1つのモーターユニット(筋繊維の束)が発揮する力のことです。
これは1つ1つのモーターユニットにかかる負荷(=メカニカルストレス)が大きいことを意味します。

つまり扱う重量が同じならモーターユニットが受けるメカニカルストレスの大きさは以下の順になるということです。

コンセントリック収縮 < アイソメトリック収縮 < エキセントリック収縮

ゆっくりジリジリと動作するほど筋肉の収縮が止まったアイソメトリック収縮に近付きます。
それにより各モーターユニットが発揮する筋力の向上し、メカニカルストレスをアップさせることができるということです。

2-1-2 TUTを上げる

もう1つのメタボリックストレスをアップさせる上で最も重要なのがTUTの向上です。

TUT(Time Under Tension)=筋肉に負荷がかかっている時間の長さ

筋肉が収縮している間は血流の大部分が遮断されるため、酸素や栄養が不足した環境で筋肉は動作することになります。
TUTが上がるほど過酷さが増し、筋肥大に有効なホルモン分泌化学物質による刺激が増えるということです。

TUTアップのためにはゆっくり動作することが効果的なのは言うまでもありません。

2-1-3 スロトレの筋肥大効果

つまりスロトレが良いってこと?

ゆっくり動作すると言えば、読んでそのままスロートレーニング(通称スロトレ)が代表的なメソッドでしょう。
しかし一般的なスロトレにはあまり筋肥大効果がありません
その理由は以下の2つです。

①扱う負荷が小さい ②時間のかけすぎ

動作スピードをゆっくりにする目的はTUTを上げること、そして発揮する筋力を上げることです。
TUTは良いとして一般的なスロトレは動作をゆっくりする代わりに極端に低い重量を扱う傾向があります。
これでは2つ目の目的(メカニカルストレスのアップ)を達成することは出来ません。

また動作スピードの筋肥大効果を検証した研究によると1レップの動作が10秒を超えると筋活動が著しく低下し筋肥大効果が消失することが確認されています。
TUTのアップを目指すあまり動作を遅くし過ぎてしまっている点でもスロトレはマイナスです。

2-2 速い動作の方が効果的?

ここまで動作スピードをゆっくりにする方が効果的という説明をしてきましたが、狙いによっては動作を速くする方が効果的になるかもしれません。
研究においても挙上スピードを10秒にした場合よりも1~3秒にした方が筋肉量が顕著に増加することが確認されました。

ゆっくりだと最大19%のところ、速い動作だと最大37%だったよ

具体的には以下の2つの要素が関係しています。

①トレーニングボリューム ②オールアウト

2-2-1 TUTのアップ=トレーニングボリュームの低下

トレーニングボリュームとは「負荷×レップ数×セット数」のことで、簡単に言えば筋トレの運動の総量のことです。
このボリュームの大きさが筋肥大効果を決定するという研究があり、週当たりのボリュームを考慮して分割・メニューを設定するトレーニーもいます。

挙上動作を素早く行うこととトレーニングボリュームの大きさの関係はシンプルで、TUTが延びるほどレップ数が下がる傾向にあるからです。
過度にTUTを意識してゆっくり動作し過ぎるとレップ数、つまり筋肉の伸張・短縮運動の回数が著しく減ってしまいます。

2-2-2 オールアウトの効率化

筋肥大のためには筋肉を構成する筋繊維(主に速筋繊維)を満遍なく刺激する必要があります。
このモーターユニットの使い切りというのがいわゆるオールアウトと言われるものです。

ゆっくり動作することで1つのモーターユニットが発揮する筋力が高くなると解説しましたが、これは動作に関与するモーターユニットの数が減少するからです。
活動するモーターユニットが少ないということはそれだけオールアウトに時間がかかることになります。

トレーニングボリュームを固定してしまっていた場合、オールアウト未遂の状態でトレーニングを終えることになりかねません。
また1つ前の項目で解説したとおりTUTが長いほどレップ数が減るため、設定したボリュームすら達成できない可能性もあります。

2-2-3 瞬発力を発揮してはいけない

挙上動作のスピードを速くする点については1つ注意点があります。
それが瞬発的な動作をしてはいけないということです。

速筋繊維の話にも関係することから「なるべく速く動作する方が良い」と考える人もいるようですが、実はこれは誤りです。
少なくとも筋肥大を目指すトレーニングにおいては瞬発力を発揮することはマイナスに働きます。

瞬発的な動作は初動にこそ大きな負荷がかかるものの、動作の大部分が初動の慣性によって進んでしまうからです。
慣性で進むということは、筋肉が力を発揮する必要がありません。
意外に忘れがちな事実ですが、筋肥大のためには動作をすること自体ではなく、動作中に有効な負荷が筋肉にかかることが重要です。

確かにベンチ100㎏とか上がるのに全然筋肉が大きくない人とか結構いるもんね…

常に負荷を筋肉にかけて押し続けるコントロールされた挙上動作の範囲内においてなるべく動作を速く行うことに意味があるということです。

2-3 ウェイトを下ろすスピード

エキセントリック収縮を置き去りにしてしまいましたが、ウェイトを下ろす局面においても基本的な考え方は同じです。
「ポジティブ動作はなるべく速く、ネガティブ動作はなるべくゆっくりと」という指導が一般的ですが、これは正しくありません。

「ポジティブ動作をなるべく」の問題点は前の項目で解説したとおりね

コンセントリック収縮をアイソメトリック収縮に近付けるのと異なり、エキセントリック収縮はネガティブ動作で強制的に起こります。
これに動作のスピードは全く関係ありません
その点からまず動作のスピードを意識的に落とす意味は無くなります。

さらにネガティブ動作(=エキセントリック収縮)は発揮する筋力は3つの収縮の中で最大になります。
つまり活動するモーターユニットの数が最も少ないということです。

オールアウトを目指すためにはレップ数やセット数を稼ぐ必要があります。
しかしそこで動作スピードを落とし、いたずらにTUTを伸ばしてしまえばレップ数やセット数は減少してしまいます。
こちらもあくまでウェイトを筋肉でしっかりコントロールしつつ、なるべく速く動作する方が良いということです。

まとめ

ウェイトを挙上する動作スピードと筋肥大の関係について解説しました。

結局のとこゆっくりの挙上と速い挙上のどっちが結局良いの?

この点について個人的な結論は以下の通りです。

挙上スピードの正解 = トレーニング種目ごとの目的・位置づけによって異なる

1つの部位に対して複数の種目でメニューを組むのが一般的ですが、その種目選択の方法の中で最もポピュラーなのがPOF法です。
POFは筋肥大のための3大ストレスにそれぞれ対応しており、非常に効果的な手法と考えられます。

①メカニカルストレス = ミッドレンジ種目
②マッスルダメージ = ストレッチ種目
③メタボリックストレス = コントラクト種目

まずマッスルダメージは筋肉の伸張局面(=エキセントリック収縮)で起きるので、動作のキモはネガティブ部分です。
ストレッチ種目ではウェイトのコントロールを前提になるべく速く動かすのが効果的になります。

メタボリックストレスはTUTの向上がカギになるため、コントラクト種目ではゆっくりとした動作が効果的です。
コントラクト種目は扱える負荷が落ちやすいので、発揮する筋力をアップさせられる点もメリットと言えます。
ただし1レップが8~10秒を超えないようなスピードで行いましょう。

最も悩ましいのがミッドレンジ種目(メカニカルストレス)だね…

これについてはメカニカルストレスの意味するところによって異なります。
具体的には以下の2つのパターンが考えられますが、本当のところは今は分かっていません。

①各筋繊維に強い負荷をかけることそのものに意味がある
②強い負荷に対応して多くの筋繊維が動員されることに意味がある

ただ「だから分かりません」では話にならないので、ぼくなりの考察を以下にまとめます。

筋力アップ筋肥大
動作のスピードゆっくり
(8秒以内)
速く(※)
(4秒以内)
メリット・発揮する筋力のアップ
 =扱える負荷のアップ
・トレーニングボリューム
・オールアウト
デメリット・トレーニングボリュームの低下
・オールアウト未遂
・発揮する筋力の低下
 =扱える負荷の低下
(※)ウェイトの動きをコントロールできる範囲内で

継続的な筋肥大のためには筋力アップのフェーズも欠かせません。
そこではより大きな負荷を扱うことを重視して動作をゆっくりにします。

そして筋肥大を目指すフェーズではボリューム・オールアウトを重視して動作を速く行うようにしましょう。
てなとこで。

参考文献