可動域は広い方が効果的?フルレンジトレーニングの筋肥大効果

筋トレと関節の可動域

筋トレ・筋肥大において正しいトレーニングフォームは基本中の基本の要素です。
効果的な筋トレというと負荷やセット数、頻度などに意識が流れてしまいますが、そもそも正しくトレーニングできていなければこれらをどう調整しても意味はありません。

フォームの中でも特に可動域・動作範囲については議論が多いポイントです。
このページでは可動域の広さと筋肥大の関係について解説します。

このページでわかること

・可動域の種類とその特徴
・可動域を広くすることのメリット
・可動域に関してよくある誤解・注意点

1 関節のために筋肉は動く

筋肉は全身の各関節を跨ぐようについていて、その筋肉の収縮によって生み出される回転力によって関節は動きます。
関節自体に動く力はなく、筋肉の収縮をコントロールすることによって関節が動くという関係です。

当たり前のことすぎるあまり忘れがちだよね!

このように正しくは筋肉の収縮→関節の可動という順番です。
このことを逆算して考えれば、関節をどう動かそうとするかによって筋肉の活動が変わると言えます。

つまり関節の可動域(に対する意識)を工夫することで、筋肉の働きを効率化でき、筋肥大にも繋がるってことです。
そしてトレーニングにおいては、以下2つの動作範囲のうちどちらがより効果的かが議論になります。

①フルレンジ ②パーシャルレンジ

フルレンジは名前の通り筋肉の収縮範囲の全体を動くトレーニングです。
最も関節が伸びた状態から最も縮んだ状態まで広く動作を行う方法で、その関節に付着した筋肉も最も伸ばされたところから、最大限短縮したところまで収縮します。

一方のパーシャルレンジは収縮域の両端は使わず、その中心周辺の範囲のみで動くトレーニングです。
関節は常に曲がった状態なので、関節に付着した筋肉も当然ながら伸び切りも縮み切りもしません
常に軽く収縮した状態になります。

2 フルレンジの方が筋肥大に効果的

ではフルレンジとパーシャルレンジとではどちらの方が筋肥大効果が高いのでしょうか?
可動域と筋肥大の関係について考察した研究によれば「可動域を広くとって筋肉全体に刺激を入れるのが効果的」ということになっています。
つまりフルレンジの勝利です。
これは筋トレの一般的な指導内容に合致していますね。

科学的な説明をする場合、ちょっと細かい話になりますが筋繊維の構造が関係します。
以下で詳しく解説していきます。
フルレンジの方が効く、という結果だけ知ってればOKという方は読み飛ばしてください。

2-1 筋肉の構造とパワーの発生

筋肉は複数の筋繊維が集まってできているのはよく知られたことです。

その筋繊維はさらに小さい単位の筋原線維からできています。
筋原線維は芯の太い繊維(ミオシン)と芯の細い繊維(アクチン)が繋がった構造です。
そのミオシンとアクチンが引っ張り合って重なる動きが無数に発生した結果、筋肉全体が収縮します。

2つの重なりがちょうどいいポイントを生体長といい、筋肉が発揮する力はここが最大です。
そしてこの生体長になるタイミングというのがちょうどパーシャルレンジに当たります。
パーシャルレンジで動作がしやすいのはこういうメカニズムです。

2-2 力が大きい方がいいのでは?

筋肥大を起こすためには筋肉全体に満遍なく刺激を入れる必要があります。
モーターユニットの使い切り、すなわちオールアウトが重要ということです。

一見すると発揮できる筋力が大きい方が効果的なトレーニングに思えますが、実際は全くの逆。
1つ1つの筋繊維が発揮できる力が大きいということは、同じウェイトをより少ない筋繊維で支えることが出来てしまうからです。
筋力発揮の効率が良いほど、筋肥大には非効率になってしまいます。

「効果的な筋トレ=効率が悪く疲れやすい方法」だよ

2-3 フルレンジの方がダイナミック

フルレンジが有効であるもう1つの理由が筋繊維の収縮動作のダイナミックさです。

ミオシンとアクチンの滑り込みによる収縮運動は全体で同時に起こるわけではありません。
伸展位から収縮位まで動作する過程で徐々にその運動が全体に拡がっていくのです。

そのためパーシャルレンジでの動作になると、引き合いっぱなしの部分とほとんど引き合いが起きていない部分とでムラが出来てしまいます。
そうなると部分ごとに刺激の入り方が変わってしまうと同時に筋肉全体としての運動量も低下してしまうのです。

筋肉の運動量、すなわちトレーニングボリュームが筋肥大のキーであることは常識で、この点からも動作範囲の広さは重要であると言えます。

3 フルレンジトレーニングの注意点

これまで解説してきたとおり、筋肥大のためにはフルレンジでのトレーニングが有効です。
しかしそんなフルレンジトレーニングにも2つ注意点があります。

①「フルレンジ=可動域全体」ではない
② エビデンスが全てではない

フルレンジを関節の可動域全体と誤解しているケースが結構多くあります。
フルレンジというのはあくまで筋肉が力を発揮できる収縮域の全体という意味です。
大抵の場合は一致しますが、必ずしも一致するわけではないため区別しなければいけません。

筋肉の働きが有効な範囲を出てしまえば、その筋肉は力を発揮できず負荷もかからなくなります。
ベンチプレスやダンベルフライなどで、深く下ろし切ったところで急に大胸筋から力が抜けてしまった経験があるという人はまさしくこれが原因です。

この問題は対象の筋肉に有効な負荷がかからず、筋肥大が停滞してしまうだけではありません。
ベンチの場合は三角筋のフロントなどに過剰な負荷が一気に乗ってしまうため、肩を故障するリスクが高くなります。

負荷の方向と筋肉が発揮する力の方向の関係も、この負荷抜けに大いに関係します。
そのためより厳密に定義するなら「種目ごとターゲットの筋肉に有効な負荷が乗る範囲」ということになります。

そしてもう1つ、エビデンスは絶対ではないということです。
筋トレに関する研究では様々な限界があって、実際のトレーニング現場と同様の環境を作ることは出来ません。

期間とか種目数とかね。あとは体質とか個人差の影響も大きいし。

こうしたフルレンジの問題やその対策としてのトレーニング方法について詳しくはこちらのページで解説しています。

まとめ

フルレンジトレーニングと筋肥大の関係について解説しました。
「可動域を広く使う方が効果的」という一般的な認識を科学も支持しています。
その主な理由は「①モーターユニットの使い切り」と「②収縮運動のダイナミックさ」の2点です。

しかしフルレンジトレーニングにも注意点があり、特に可動域の考え方については正しく押さえる必要があります。
関節の可動域全体ではなく、あくまで筋肉が力を発揮できる範囲ということです。
特に関節の柔軟性が高い人はこの有効範囲を出てしまいやすいので注意しましょう。
てなとこで。

参考文献