【フルレンジより有効?】POFに基づくパーシャルレンジトレーニングの筋肥大効果
「フルレンジの正しいフォームでのトレーニングが筋肥大には最も効果的」というのは非の打ち所がない正論に見えます。
実際に国内外の各種研究でも、「フルレンジの方が筋肥大効果が高い」という結果がほとんどです。
しかし筋肥大に関する研究や解剖学の知見に、物理学そして実体験をプラスして考えて至ったぼくの最適解はこの常識とは異なります。
ズバリ「パーシャルレンジのトレーニングの方が効率的かつ効果的」というものです。
このページでは、その理論に至る根拠について解説します。
・フルレンジ有力説を出した研究の問題点
・フルレンジトレーニングの4つのデメリット
・筋トレの種目選択において重要な視点
・効果的なパーシャルレンジトレーニングメニューの組み方
※持論満載なので万人向けとはいきません。共感してくれた人のみ試してみてください。
1 「科学的根拠(エビデンス)=答え」ではない
最近は筋トレ界隈でも「科学的」で「エビデンス」が確立された理論を拠り所にする傾向が高まっています。
かつてのただひたすらハチャメチャに高重量でトレーニングするだけ、みたいな一般的な脳筋イメージとはだいぶ違いますね。
もちろんいい意味でね
しかし筋トレに関する研究にもいくつか限界があります。
フルレンジの方が効果が高いとするエビデンスの問題点をピックアップするならば、大きく以下の2点です。
また、そもそもエビデンスは万人に通じる内容ではなく、あくまで多数決だということも申し添えておきます。
①比較の仕方に問題がある
②実際のトレーニング方法と異なる
1-1 レンジの比較に問題あり
件の研究の場合、パーシャルレンジとフルレンジを比較するに当たって、負荷やレップ数は固定されていました。
筋肥大の要素は複数ありますが、トレーニングボリュームは大きなカギを握っています。
すなわち負荷×回数×セット数です。
一見するとレンジの違い以外の変数を固定した合理的な設計に思えます。
しかし見落とされている動作の距離という視点をプラスすると、この比較はパーシャルレンジに不利な内容です。
パーシャルレンジは筋力が強いポイントでの動作になるため、同じ負荷ならより多くの回数を、同じ回数ならより大きな負荷を扱えます。
つまりこれらを固定されということは強みを完全に殺された状態であり、そのメリットを正確に計測できてないのです。
フルレンジの方が運動量が多くなるのだから、引き分けはあったとしても負けることはまずありません。
この比較の方法ではフルレンジの方が筋肥大の効果が高いという結果が出るのが当然で、何の不思議もないということです。
1-2 実際は複数種目でメニューを組む
またトレーニング方法と筋肥大効果の関係の研究では、たいていが1部位・1種目での検証になります。
多いのは大腿四頭筋のレッグエクステンションかスクワットだね
多少なり解剖学を勉強したことがある人なら分かると思いますが、筋肉ごとに発達の条件や反応は異なるものです。
つまり大腿四頭筋で検証した結果が大胸筋や上腕二頭筋にも共通して当てはまるとは言えません。
さらに実際のトレーニング現場では1部位に対して、(主にPOFの視点で)2~4種目程度でメニューを組むのが一般的です。
1種目に限られれば収縮位から伸長位まで動作できるフルレンジの方が有利なのは当然のことと言えます。
しかし各ポイントに絞った3種目と比較したら結果は変わる可能性もあるんじゃないでしょうか?
2 フルレンジの問題点
「フルレンジの方が効果的」とした研究の問題点が分かったところで、ここからはフルレンジ動作に伴う問題点について解説していきます。
フルレンジトレーニングの問題点は以下の4点です。それぞれ順番に解説していきます。
①負荷の分散 ②筋張力のムラ ③負荷抜け ④筋肉のダメージ
2-1 動作方向と負荷方向のズレ
各関節の動作は筋肉が収縮し、関節が生み出す回転(トルク)によって生じます。
関節の回転なので、ウェイトを持った手が初動から終動まで描く軌道は円弧状です。
一方でダンベルなどのフリーウェイトによる負荷は重力なので、常に真下の方向にかかり続けます。
力が分散することなく狙った筋肉にダイレクトにかかるのは、動作の方向とウェイトの負荷(この場合は重力)とが真逆を向くタイミングのみです。
通常のアームカールだったら肘が90度になったポイントね
その他の全てのポイントでは動作の方向と負荷の方向にズレが生じ、フルレンジほどズレたポイントでの動作区間が長くなります。
それのどこが問題なの?
いままで深く考えたことが無い場合にはそれほど大きな問題とも思えないかもしれません。
しかし分散先の協働筋によって2パターンの問題があります。
①協働筋が強いパターン ②協働筋が弱いパターン
2-1-1 協働筋が仕事を奪う
動作の方向に協働する筋肉が強すぎる場合は、不必要に重い負荷を設定することになります。
軽い負荷では協働筋に仕事を奪われて十分にターゲットの筋肉に刺激を入れられなくなってしまうからです。
これはシンプルにケガのリスクが高くなる点が最大のデメリットです。
また高すぎる負荷のせいで、肝心のスタッキングポイントでチーティングしてしまうなんてことになれば効果がかなり薄れてしまいます。
2-1-2 協働筋に足を引っ張られる
逆に協働筋がメインの筋肉より弱い場合は、それに合わせるように軽い負荷で設定することになります。
当然ながらメインの筋肉は余力を残してしまうので、筋肥大が起きるだけの十分な刺激を受けられません。
上腕三頭筋が弱いせいでベンチプレスの重量が伸びず、なかなか大胸筋が発達しないというケースはあるあるです。
ベンチプレスの動作のトップではほとんど大胸筋が関与せず、ほとんどが三頭筋の動作になります。
フルレンジでなければ不要だったポイントで、ここに足を引っ張られるのは非常に非効率です。
2-2 筋張力のムラの問題
各関節動作の回転(トルク)が発揮するパワーは一定ではなく、初動から終動までムラがあります。
それぞれの筋肉が最大の力を発揮できるポイントは角度にしておよそ20~30°程度です。
効率的な筋肥大のためにはメカニカルストレス、すなわち最大筋力の発揮が不可欠の要素です。
しかし「フルレンジで正確に動作できる重量」という前提では、最も筋力の低いポイントに負荷を合わさざるをえません。
つまり最も直観的かつ大事な要素である大きな負荷をターゲットの筋肉に十分にかけられず、筋肥大効率が落ちてしまうということです。
一方でパーシャルレンジは非常に狭い範囲での動作になるため、筋力張のムラにあまり大きな影響を受けなくて済みます。
最大筋力の発揮を狙う種目においても、弱いポイントに足を引っ張られることなく本当の最大負荷でトレーニングすることが可能です。
2-3 負荷抜けの問題
筋肥大の要素の1つに「酸欠状態」というものがあります。
これは筋肉の短縮によって周囲の血管を圧迫することで酸素や栄養素の供給量を制限し、筋繊維を過酷な環境下に置くことです。
このストレスによってホルモンや成長因子の分泌が活性化し、筋肥大のシグナルを発するようになります。
同時に酸欠状態は毛細血管の発達を促し、よりバリスティックな仕上がりにも貢献します。
負荷抜けが問題なのはレップごとに血管の締め付けが解放されてしまい、この効果を得にくくなるからです。
そのためノンロック法など関節を伸ばし切らないトレーニングメソッドもあります。
これにより筋張力の発揮は持続しますが、ロック直前にかなり筋肉の収縮が解かれるため、血管の圧迫という点ではやはり十分とは言えません。
これも動作のレンジを広く取ろうとした結果生じる問題と言えます。
2-4 筋肉のダメージが大きい
フルレンジのトレーニングの方が筋肉に与えるダメージが大きいというのも、考え方によってはデメリットになります。
フルレンジ・パーシャルレンジでの比較研究において、もう1つ計測された要素が疲労の残り方です。
パーシャルレンジでは24~48時間で回復した一方、フルレンジの場合は72時間近く疲労が残っていました。
筋繊維に強い刺激・ストレスを与えることが筋肥大の条件なのでダメージは大きい方が良いように思えます。
しかし何度も解説してるとおり、筋トレは1回やって終わりではなく継続していくものです。
疲労の回復に時間がかかるということはトレーニングの頻度を上げにくくなります。
週当たりのトレーニングボリュームが筋肥大に影響するという研究もあり、頻度は意外と重要です。
中3日以上空ければいけないフルレンジはこのボリュームの観点でマイナスになります。
3「パーシャルレンジ+POF」トレーニングメニューのススメ
ここまで解説してきたフルレンジトレーニングの問題点を解消する方法が、各ポイントごとのパーシャルレンジトレーニングです。
POF法は筋肥大の基本要素である、以下の3つのストレスに対応しています。
①メカニカルストレス=ミッドレンジ種目
②マッスルダメージ=ストレッチ種目
③メタボリックストレス=コントラクト種目
目的ごとに各ポイント周辺のみで動作し、レンジ全体のそれぞれポイントで効果的な刺激を与えます。
因みに「負荷が最大になる」というのは、負荷方向と動作方向が真逆に位置するポイントのことです。
3-1 ミッドレンジ種目
ミッドレンジ種目は関節動作の中間(短縮位でも伸長位でもないポイント)で負荷が最大になる種目です。
多くの関節動作において最大の力を発揮するポイントがミッドレンジであることから、メカニカルストレスを狙う高負荷トレーニングが中心になります。
「深く下ろしてしっかり挙げる」が基本として染みついていると思いますが、中間周辺のみで動作するのがポイントです。
高負荷トレーニングは中枢(脳)の疲労も強いので、インターバルは3分以上と長めに設定しましょう。
3-2 ストレッチ種目
ストレッチ種目は関節が完全に伸展し、筋肉が完全な伸長位に達した時に負荷が最大になる設計の種目です。
引き延ばされるのに抵抗することで生じるマッスルダメージで、筋繊維の微細な損傷を引き起こします。
ネガティブ局面で負荷に抵抗する距離を長くとりたいので、多少は動作範囲が広くても問題ありません。
そして完全にストレッチしたポイントまで深く下ろすことはマストです。
ちなみに三角筋のように「最大筋力=伸長位」の筋肉もあり、その場合はミッドレンジ種目は不要になります。
ストレッチ種目でメカニカルストレスとマッスルダメージの両方を狙いましょう。
インターバルについて、高負荷を兼ねてる場合は多少長めでもOKですが、マッスルダメージを単体で狙う負荷なら長くても2分弱程度にしましょう。
ついでに言うと、マシン種目は肝心のネガティブで摩擦による負荷の低減があるため、あまりオススメしません。
3-3 コントラクト種目
コントラクト種目は筋肉が最大限に強く短縮(収縮)したポイントで負荷が最大になる設計の種目です。
筋肉を強く収縮することで血管を圧迫し、血流および酸素供給量を制限することを目指します。
こちらはなるべく収縮した状態を維持したいので、広いレンジでの動作は逆効果です。
単に低負荷×高回数でもOKですが、山本義徳先生が考案した3/7法のように動作時間よりも収縮時間を長くする方法に置き換えるのもアリでしょう。
完全短縮したポイントで筋張力がMAXになる筋肉(関節動作)は(恐らく)1つも無いので、高負荷トレーニングが必ず別に必要になります。
不完全回復、つまり回復する余裕を与えないようインターバルは1分未満と短めに設定しましょう。
まとめ
フルレンジトレーニングの有効性に対する疑問と、パーシャルレンジトレーニングの有効性についての考察を紹介しました。
筋トレにおいても知識は重要ですが、研究結果・科学的エビデンスを絶対視することは筋肥大の妨げになる可能性もあります。
フルレンジの問題は簡単に言えば、短縮位から伸長位まで効果を欲張りすぎて結果的にどれも中途半端になりやすいってことです。
1部位に対して複数種目のメニューを組むなら、それぞれの(PFO上の)狙いに特化したポイント・フォームで動作する方が効果的と考えられます。
その際には1番狙いたいポイントで動作方向と負荷方向を真逆にすること(=負荷の最大化・効率化)も重要です。
ここに配慮したトレーニング種目やフォームについては各筋肉の部位ごとに解説しています。
このブログでは、解剖学的な機能やポイントごとの鍛え分けのテクニックなどについても解説してるので、ぜひ参考にしてください。
てなとこで。
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