腸内細菌と免疫の関係とは|清潔なほどアレルギーになる?【衛生仮説】

腸内環境が全身の様々な面に現れることから腸活が話題になりました。
2020年頃からの新型コロナウイルスの感染拡大によって、そんな腸に関係する機能の中でも特に注目されるようになったのが免疫機能です。
このページでは、腸内環境と免疫力の関係について解説します。

このページでわかること

・そもそも免疫とは何か?その働きとは
・免疫において腸が果たす役割
・腸内環境の悪化が免疫機能に与える影響
・近年アレルギー体質の人が増えた理由

1 そもそも免疫とは?

そもそも基本的な知識として免疫が何なのか?どのように働くのかを簡単におさらいしましょう。

人間の身体は常に様々な細菌やウイルスなどの異物に常に晒されています
でもずっと風邪を引いていたりお腹を壊したりニキビができ続けるわけじゃありません。
それは免疫機能が働いているからです。
簡単に言えば免疫とは入ってきた異物などが増殖しないように抑え込み、体外に排出する働きのことです。

全身に免疫を担当する細胞(免疫細胞)は存在しますが、全体の6~7割が腸管に存在します。
これこそが腸が人体で最大の免疫器官と言われるゆえんです。
腸を含めた消化管は、口から入ってきた食べ物を含む異物が直接触れる場所。
なので身体の中にありながら、同時に身体の外とも言える場所で、異物を体内に入れるかどうかの最後の砦となるのです。

2 腸内での免疫の働き

免疫には大きく以下の2つの種類があります。

自然免疫 ②獲得免疫

1つ目の自然免疫は読んで字のごとく、人間が生まれながらに持っている免疫機能のことです。
ナチュラルキラー細胞(通称:NK細胞)やマクロファージなどがこれに当たります。

もう1つの獲得免疫は経験した異物について学習し、それに対応する免疫を作り出す機能のことです。
分かりやすい例が予防接種で、ヘルパーT細胞とB細胞がそのウイルスに対する抗体の生成で重要な役割を果たします。
腸の免疫機能は特に新しい異物への対応がメインになるので、獲得免疫についてちょっと深堀りしましょう。

獲得免疫は主に小腸の中で働きます。
有害・無害の判断から抗体の作成までを小腸の細胞の中で行うのです。

小腸の粘膜層のすぐ下にパイエル板という細胞があり、異物を感知するとわざとそれを細胞の中に取り込みます。
パイエル板の中でM細胞が異物をバラバラにして遺伝子情報を解析し、そのデータを樹状細胞に送る。
そして有害と判断された場合はヘルパーT細胞に指示が行き、B細胞に抗体を作らせるという流れです。

あんまり細かいことまでは覚えなくても良いよ

3 腸内細菌と免疫の関係

このように免疫機能と抗体の産生プロセスの大半は常在細菌のほとんどいない小腸で行われます。
では腸内フローラは免疫機能に関係していないかというとそうではありません。
腸内細菌のほとんどが住む大腸内でも外敵に対するバリア機能は働いています。
それがコロナイゼーションレジスタンス(定着抵抗性)と粘膜によるバリアです。

3-1 コロナイゼーションレジスタンス

大腸内には数百~数千兆個とも言われる細菌が所狭しと生息しています。
平和的に共存しているように見えて、実は隙あらば自分たちの領土を拡大しようと常にせめぎ合っています

フローラ(お花畑)なんて言うから凄い平和に思えるよね

そんな中に外から入ってきたマイノリティのよそ者が入りこむ余地はありません。
「新入りにくれてやる土地なんかない」とばかりにみんなで追い出そうとします。
腸内の常在菌の生存本能が結果的に人間にとって免疫として働くというものです。
同じ原理でプロバイオティクスのような有用菌も体内にはとどまれないので、良かったり悪かったりですけどね。

しかし栄養の不足や抗生物質や保存料による極端な常在菌の殺菌が起きると、腸内フローラに隙間が出来てしまいます。
するとコロナイゼーションレジスタンスが働かず、外部の細菌やウイルスが定着しやすくなってしまいます。

3-2 粘膜

肉眼で見れば細胞はキッチリ隙間なく詰まってるように見えますが、細菌レベルで見れば隙間があります

それは腸壁の細胞も同じです。それでも異物が体内に侵入してこないのは粘膜によってその隙間が埋められてるからです。
腸内の細胞の間の繋がりをタイトジャンクションと言ったりもします。
そしてこの粘膜を作り出すのも腸内の常在菌です。
厳密には腸内細菌がエサを食べて発酵させることで発生する短鎖脂肪酸の働きで適量の粘膜が作られます。
こちらも間接的にですが、腸内細菌が免疫として働いていると言えるポイントです。

短鎖脂肪酸を産生する善玉菌の数が不足すると、十分に粘膜が作られなくなってしまいます。
さらに善玉菌のエサであり短鎖脂肪酸の材料でもある食物繊維が不足も問題です。
善玉菌はエサが不足してくると腸の粘膜を食べて飢えをしのぐので、粘膜の減少に拍車がかかってしまいます。
産生されない上に減少していくので、二重に免疫を弱めることになってしまうのです。

4 腸内環境の乱れが免疫に与える悪影響

このように腸内細菌と上手く共生することで人間の免疫・健康は正常に保たれているわけです。
免疫力の低下と言っても風邪を引きやすくくらいでは?と思う人もいるかもしれません。
しかし単なる一時的な「免疫力の低下」が「免疫の異常」になると重大な問題に繋がります。

①NK活性の低下 ②アレルギー症状 ③自己免疫疾患

4-1 NK活性の低下

人間が生まれながらにして持ってる基本的な自然免疫の1つであるNK細胞の活性(NK活性)にも腸内細菌が関係しています。
NK活性の低下はガン化した細胞の除去効率の低下に繋がるため、ガン発症のリスク要因です。

そのNK活性に重要な要素の1つが腸内細菌と言われています。
外敵と抗体のやり取りは基本的に小腸内ですが、大腸の腸内細菌も大腸壁の免疫細胞と外敵の情報交換をしている可能性があるのです。

「こんな外敵が小腸で見落とされてたぞー」みたいなね

現にNK活性が低下した人に対してプロバイオティクスを投与すると、NK活性が改善するという研究もあります。
これは腸内細菌がNK活性の高さに関係しているという間接的な証拠です。

4-2 アレルギー

冒頭でも軽く触れましたが、アレルギーや花粉症を抱えている人が以前より増えてきていると感じませんか?
ぼくたちが子供の頃はアレルギーのための別給食とか代替食のお弁当を持ってきてる友達なんてそんなにいませんでした。
でも最近は1学年に10人以上も食物アレルギーを抱えた生徒がいて栄養士・調理士さんもかなり大変なんだとか。

アレルギーは簡単に言えば花粉みたいに本来は無害なモノにまで身体が過剰に反応する免疫の異常です。
では何故このような免疫の異常が起きるのでしょう?
以下で免疫の異常の原因と、現代っ子にそれが多いと考えれられる理由について解説します。

4-2-1 原因はヘルパーT細胞のアンバランス

腸内細菌との関わりを解説する前に、獲得免疫として既に紹介したヘルパーT細胞について掘り下げて解説しましょう。

ヘルパーT細胞は病原菌などを担当する①ヘルパー1T細胞(Th1)とアレルゲンを担当する②ヘルパーT2細胞(Th2)の2つがあります。
この2つのバランスが崩れTh2の働きが過剰になった状態が花粉症などのアレルギーです。

そしてTh2の働きが過剰になる原因として挙げられてるのが「衛生仮説」です。

4-2-2 衛生仮説とは何か?

人間はTh2が多い状態で生まれてきて、様々な細菌などに触れながら成長するにつれてTh1が発達してきてバランスが完成します。
子供のころはアトピーなどが出ていても、大人になったら出なくなるのもこの関係です。

しかし衛生状態が良すぎて細菌に触れる機会が少ないまま成長するとTh1が発達しません。つまり両者がアンバランスなまま成長してしまいます。
このように細菌に触れる機会が極端に少ない環境で成長する子供が増えた結果、近年アレルギー持ちの子供が多くなったと考えるのが衛生仮説理論です。

4-3 怖いのはアレルギーだけじゃない

シーズン中の花粉症の人の生活を見てるとかなり大変そうで、それだけでも十分問題です。
しかしヘルパーT細胞の異常がもたらす問題はそれだけにとどまりません。
ヘルパーT細胞(Th1、Th2とも)の活動が過剰になることで、正常な細胞を攻撃する自己免疫疾患に繋がる危険があります。
ここで腸内細菌が免疫のコントロールに与える影響が登場してきます。

4-3-1 Tレグ細胞というストッパーの存在

ヘルパーT細胞は制御性T細胞(Tレグ細胞)という別の細胞ともバランスしながら働いています。
Tレグ細胞はヘルパーT細胞が攻撃しようとした対象を見極め、攻撃すべきか判断しコントロールするものです。

イメージ的にはヘルパーT細胞はジャイアンでTレグ細胞はしずかちゃん。
ヘルパーT細胞の腕っぷしは敵が入ってきた時に頼りになりますが、誰かれ構わず攻撃してしまう血の気の多ささが玉にキズ
そこを「彼は敵じゃないかも!」と冷静な判断で剛腕を止める役割を果たすのがTレグ細胞です。

この2つのバランスがとれていれば、正常な細胞を攻撃することはありません。

4-3-2 腸内環境の悪化がTレグ細胞を減らす

自己免疫系の疾患を患っている人の腸内細菌を検査すると、腸内フローラが乱れていることが確認されます。
特にクロジストリウム菌という菌種が著しく減少しています。
この菌の存在がTレグ細胞の生成に関わっている可能性があり、乱れに伴い菌が減少することでヘルパーT細胞の暴走が起きるのです。

Tレグ細胞というストッパーが少なくなるとB細胞経由で免疫グロブリンA(IgA)という抗体が過剰に産生されます。
そして病原体だけでなく、自分の臓器や関節、筋肉など正常な細胞まで攻撃を始めてしまうのです。

爆心地である腸においては潰瘍性大腸炎や難病指定されているクローン病などの自己免疫疾患が発生。
また関節リウマチ多発性硬化症重症筋無力症など様々な器官や部位に症状が起きる可能性があります。
ちょっとの腸内環境の悪化が即重症化するわけではありませんが、継続すれば重篤になるリスクもあるってことです。

まとめ

腸内環境と免疫の関係について解説しました。
腸は最大の免疫器官と言われますが、そのメカニズムは意外とちゃんと理解できてなかったのでは?

近年は花粉症をはじめとしたアレルギーを抱える人が多くなってますが、細菌と密接に関係してるのが分かったはずです。
それは腸内に住む常在菌だけでなく、外部の菌との接触も含まれます。
アレルギーの発症は(衛生が発達した)都市部で多く、酪農家で育った人には極端に少ないというデータもあるほど。
過剰な抗菌、滅菌志向は子供の将来の健康にとって逆効果になるってことです。

他にも子供の日焼けを気にするあまり紫外線予防を過剰に施した結果、ビタミンD生成が不足して骨粗鬆症を患わせてしまう親もいます。
子供を大事にするのは結構ですが、過剰になったり方法を間違えると逆効果にもなるので注意が必要です。
2020年前後の新型コロナウイルス流行の時期に乳幼児だった子供は、特に過剰殺菌に晒されているので将来やや心配なとこですね…。

そして大人でも腸内細菌との関わりは重要です。重大な疾患になる前にも免疫の低下は全身に様々な不調をきたします。
薬ではなく体内の自然な免疫に任せる方が圧倒的に効果的かつ重要です。
乱れた生活習慣で腸内環境を攪乱しないように注意しましょう。
腸内環境を悪化させる習慣についてはこちらのページで解説しています。
てなとこで。