短鎖脂肪酸って何?|腸活のキーワード【食物繊維の意外な事実も解説】

腸内環境について調べると必ずと言っていいほど短鎖脂肪酸というワードが出てきます。
略してSCFA(Short Chain Fatty Acid)とも呼ばれ、腸内環境の健全化や全身の健康に大きく関わる重要なものです。
腸活=短鎖脂肪酸と言っても過言ではないほど重要なキーワードなので、ぜひこの機会に押さえておきましょう。
このページでは、腸活の基本になる短鎖脂肪酸について解説します。

このページでわかること

・短鎖脂肪酸とは何か 種類と効果
・短鎖脂肪酸が不足すると起きる問題
・食物繊維に関する知られざる事実

1 短鎖脂肪酸とは何か?

短鎖脂肪酸とは腸内の善玉菌が食物繊維などを食べること(発酵)によって生じる有機酸の総称です。
脂肪酸の名の通り、普段ぼくたちが口にする脂質の仲間。
ただ多くの脂肪と違ってその分子の結合が短く、エネルギーとして活用されやすい特徴があります。

1-1 短鎖脂肪酸の種類

腸内で生成され有用な働きをするとされる主な短鎖脂肪酸は以下の3種類です。

①酢酸 ②酪酸 ③プロピオン酸

酢酸は腸内で大多数を占めるビフィズス菌に、酪酸は酪酸菌によって生成されます。
そしてプロピオン酸は乳酸菌が生成する乳酸をバクテロイデテス門の菌が発酵させることで生成されるものです。

ちなみに馴染み深い乳酸は短鎖脂肪酸ではありません。
ただプロピオン酸を作る前段階として重要な物質ではあります。

1-2 短鎖脂肪酸のはたらき

短鎖脂肪酸は腸管の細胞の活動に必要なエネルギーです。
短鎖脂肪酸が発生していることで腸内のPH値が弱酸性に保たれ、腸内の細菌バランスが正常に保たれます。

アルカリ性に傾くと悪玉菌が増加しやすくなるよ

そして人体最大の免疫器官と言われる腸の重要な役割を果たす上で欠かせない腸の粘膜の生成のコントロールにも必要です。
免疫に関係して炎症を抑える効果もあり、アレルギーや免疫疾患、正常な細胞をダメージから守る機能も果たします。

2 短鎖脂肪酸の不足が引き起こす問題

腸内環境が正常であれば短鎖脂肪酸が正常に作られ、短鎖脂肪酸が十分に生成されていれば腸内細菌のバランスも保たれるという双方向の関係があります。
つまりこれらの関係が崩れてしまうと様々な不調の原因になるのです。

①悪玉菌の増加 ②便通の悪化 ③リーキーガット ④糖尿病 ⑤筋肉のカタボリック

2-1 腸内環境の悪化

短鎖脂肪酸のうち特に酢酸の重要な役割が、腸内をやや酸性に保ち悪玉菌の増殖を抑えることです。
つまりこれが不足すると悪玉菌が増殖しやすい環境になり、腸内フローラが乱れやすくなってしまいます。

善玉菌がエサの不足で飢えるだけでなく、悪玉菌が優勢になりやすい環境になることでさらに善玉菌に不利になるという悪循環に陥ります。
悪玉菌を優勢にしてしまうのは高脂質・高タンパクな食事だけじゃないってことです。

悪玉菌は腸内でタンパク質などを腐敗させるので、腐敗物が腸に留まり有毒ガス(インドールや硫化水素)を発生させてしまいます。
悪玉菌優位の状態が続くことは、炎症性腸疾患や難病のクローン病大腸がんなど重大な疾患のリスク要因です。

2-2 便秘

短鎖脂肪酸が産生されると腸管に作用し、腸を動かすぜん動運動が活性化します。
ぜん動運動の活性化には食欲の増進作用など様々な効果がありますが、ぼくたちに最も身近なのが便通の改善です。

便秘の最大の原因はストレスや生活習慣の乱れなどにより腸管の動きが弱くなってしまうことと言われています。
もちろんストレスを適度に解消し生活リズムを整えることは大事ですが、同時に短鎖脂肪酸も便通の改善には重要です。

腸内フローラが乱れ、短鎖脂肪酸の産生量が低下するとぜん動運動が低下し便秘が悪化してしまいます。

2-3 粘膜生成の乱れ

短鎖脂肪酸が不足すると粘膜生成のコントロールにも支障が出ます。
粘膜の生成が不足すれば腸管のバリアが薄くなるので、異物や未消化の食べ物などが身体にそのまま吸収されてしまいます。
これはリーキーガット(漏れる腸)症候群と言われ、全身で炎症を起こし慢性疲労や様々な疾患の原因になる非常に危険な症状です。

逆に粘膜の生成が過剰になる場合もあり、それはそれで問題があります。
粘膜は古くなると腸壁から剥がれ落ちて便と一緒に排泄されますが、それをエサにするのが主に悪玉菌です。
つまり粘膜が異常増殖してしまうと、タンパク質などを多く摂ってなくても悪玉菌を増やす要因になってしまいます。
繰り返しになりますが、腸内に腐敗物が多い状態は炎症性腸疾患や大腸がんなどのリスク要因です。

2-4 糖尿病

腸内環境や短鎖脂肪酸と糖尿病の関係はイメージしにくいかもしれませんが、実は密接な関係があります。
近年の糖尿病患者の顕著な増加は、大きく変化した食事内容、具体的には食の欧米化が関係してる可能性があるのです。

短鎖脂肪酸はホルモンの生成や分泌にも関わっており、糖尿病と関係の深いインスリンの分泌もその1つです。
短鎖脂肪酸が不足するとインスリンの分泌が低下し、高血糖状態が続いてしまうことになります。

またリーキーガットで漏れた腸由来の毒素、自己免疫の活動異常によって膵β細胞が壊れ、インスリンが分泌されなくなる可能性もあるのです。
腸内環境と糖尿病の関係についてはインスリンの分泌だけにとどまらないので、詳しくは別のページで解説します。

準備中

2-5 筋トレ効果の低下

1つ前のインスリンの分泌に若干関わるところですが、筋トレの効果にも短鎖脂肪酸は関係します。
トレーニーにとって最も恐ろしいのは筋肉の分解、すなわちカタボリックでしょう。

ぼくたちの活動のエネルギーは主にATP(アデノシン三リン酸)という物質で、これは糖質から最も効率的に作られます。
インスリンが正常に働いて摂取した糖が全身の細胞に届けられていれば、不足することはありません。
しかし短鎖脂肪酸の不足によってインスリンが分泌されなかったり、上手く働かないと細胞にエネルギーになる糖を届けられません。

つまり糖質を摂ってても実質的には糖質不足の状態になってしまうのです。
この状態が続けば筋肉を分解してATPを作る糖新生に頼らざるを得なくなります。
このように短鎖脂肪酸は間接的にではありますが、筋肉の分解を左右するカギにもなるということです。

3 食物繊維は太る?

腸内で有用な働きをする短鎖脂肪酸ですが、実は良いことばかりではないかもしれません。
というのもこれが太りやすい体質を決める要因かもしれないからです。

3-1 食物繊維はゼロカロリー?

食品のカロリーは糖質とタンパク質が1g当たり4kcal、脂質が9kcalです。
糖質と食物繊維を合わせた炭水化物としての表記でも1g当たり4kcalと表記されており、食物繊維にカロリーはないとされています。
人間が消化できない食物繊維にはカロリーがないというのが常識です。しかし最近はその常識が崩れつつあります。

人間の消化酵素で分解できませんが、腸内細菌によって短鎖脂肪酸に変換されることによって人間がエネルギーとして使えるようになるからです。
名前から察しがつくと思いますが、一般的な脂質の長鎖脂肪酸、いわゆるMCTオイルと言われる中鎖脂肪酸と同じく脂質の仲間。
構成要素は同じで、その結合の長さが違うだけです。
実際、腸内で発生する短鎖脂肪酸が人間の活動エネルギーの10~20%を賄っていると言われてます。

因みにこの腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸のカロリーという観点から持ち上がったのが、メディアでもおなじみのデブ菌・ヤセ菌説です。
これに腸内環境と肥満の関係については別のページで解説してるので、詳しくはそちらをご覧ください。

3-2 種類によってカロリーが違う

食物繊維のカロリーで太るかどうかかというのはここでは重要ではありません。
短鎖脂肪酸にはカロリーがあるってこと、もう1つが発生するカロリーが食物繊維によって違うこと、この2つの事実が重要になります。
これはすなわち短鎖脂肪酸を発生させやすい食物繊維とあまり発生させない食物繊維があるというです。
それは腸内細菌がエサとして食べやすいか(=発酵性が高いか)どうかが関係しています。

3-2-1 食物繊維の発酵性とカロリーの関係

それぞれの食物繊維の発酵性は以下の通りです。

発酵性発生カロリー食物繊維の種類
25%未満0kcalポリデキストロース、寒天、サイリウム種皮
25~75%1kcal難消化性デキストリン、アラビアガム
75%以上2kcalグアーガム酵素分解物、イヌリン、ペクチン

発酵性が高いということは、それだけ多くの短鎖脂肪酸を産生してるってことで発生するカロリーも増えます。
つまり後半のものほど腸内環境へのプラスの働きが強いってことです。

これを見ると肥満への影響を心配するほど大きなカロリーではありません。
むしろこんな些細なカロリーを気にして有用な働きを捨てる方がリスキーでしょう。
食物繊維やオリゴ糖などのプレバイオティクスを摂取する時には、この発酵性に注目して種類に配慮してみることをオススメします。

3-2-2 食物繊維のバリエーションに配慮すべき理由

とはいえここに挙げた食物繊維はどれも一般的にはサプリメントとして接する機会が多いものばかりです。
出来れば食品から摂りたいですが、身近な食品に含まれる食物繊維の発酵性についての研究は見つかりませんでした。
つまりどの食品に含まれる食物繊維が効率的に短鎖脂肪酸を作るのかは分からないってことです。

ペクチン(リンゴ)とか寒天は食べ物でも馴染みがあるけどね

こういう点からも食物繊維源のバリエーションは増やしておいた方が賢明と言えます。
もちろん食品からの摂取が難しい場合にはイヌリンペクチンなど発酵性の高い繊維サプリメントを使うのもアリです。

ちなみに断らずに解説してきましたが、短鎖脂肪酸との関わりで言う食物繊維とは水溶性のものです。
セルロースなど不溶性の食物繊維と言われるものは腸内細菌でも分解できず、そのまま排泄されるので短鎖脂肪酸もカロリーも生成しません。

ただし不溶性には別の役割があるので全く不要というわけではありません。
食物繊維について詳しくはプレバイオティクスについて解説したページをご覧ください。

不溶だけど不要じゃない。うーん、実につまらない。

まとめ

腸内環境のキーワードとなる短鎖脂肪酸について解説しました。
善玉菌を増やすことの重要性を知ってる人は多いですが、その理由を知ってる人はほとんどいません。
短鎖脂肪酸を発酵食品やサプリメントから直接摂るという方法もなくはないですが、クセがありすぎてかなりキツイ。とても食べられたものではありません。

台湾に行ったことがある人なら臭豆腐(酪酸)のニオイのキツさを知ってるはず

やはり重要なのは腸にいる常在菌にエサ(短鎖脂肪酸の材料)を届けて腸内で作ってもらう方法。
その上でプレバイオティクスの知識はやはり非常に重要かつ腸活においては基本なので、必ず押さえておきましょう。

短鎖脂肪酸のカロリーを心配して食物繊維の摂取を控えようなどと考えた人は恐らくデブ菌説信者だと思います。
そういう人は腸内環境と肥満の関係について解説したページ(既にリンク掲載済み)も一度チェックしてみてください。

食物繊維の発酵性の問題はカロリー以外のところにある場合もあります。
人によっては発酵性の高い食品のせいで腸内環境が悪化することもあるからです。
そのことについてはこちらのページをご覧ください。
てなとこで。