腸内環境の悪化と肥満の関係|ヤセ菌・デブ菌説はウソ?

腸が心身の健康に様々な影響を及ぼすことが知られるようになり、腸内環境や「腸活」に注目が集まっています。
中でも特に人類の永遠の悩みである肥満・ダイエットとの関係はテレビなど多くのメディアで取り上げられ、特に大きな話題になりました。
しかし放送時間の関係、またキャッチーな内容にするため、肝心のところがかなりはしょられて・・・・・・いるのが現状です。
場合によってはかなり不正確な情報が垂れ流されてることもあります。

このページでは、腸内環境と肥満の関係を調査した様々な研究とメディアの内容の両方を加味しながら解説します。
メディアはキャッチーにしたり、特定の商品を売るスポンサーのためなど内容が偏りがち。
そうした偏りや誤解のまま間違った行動を実践しないよう正確に押さえておきましょう。

このページでわかること

・腸内環境と肥満の関係に注目されたキッカケ
・ヤセ菌、デブ菌は本当にあるのか?
・肥満を改善するために「ヤセ菌を増やそう」は間違い?
・腸から肥満を改善するために本当にすべきこと

1 太ってる人と痩せてる人の違い

肥満の原因はもちろん食生活にもありますが、同じ食事をしてても太りやすい人と太りにくい人がいます。
そこは遺伝的な要因として片付けられてましたが、一卵性の双子でも体型が大きく異なる例が発見されました。
一卵性双生児なら遺伝子はほぼ同じはずなので、つまり太りやすさは遺伝要因だけで片付けられないってことです。

考えられる様々な要因の1つに腸内環境・細菌の違いも含まれていました。
「腸内環境は指紋と同じ」と言われるほど人によって大きく異なっているモノだからです。これは一卵性の双子も例外じゃありません。

そして人間の腸内細菌が持つ遺伝子の数はおよそ約500万にも及び、これは人間の遺伝子(約2万個)の250倍にもなります。
つまりそれだけ体型や体質の個人差に及ぼす影響が大きいと考えられたわけです。

そして実際に腸内を調べてみると、太ってる人と痩せてる人とで菌の構成が大きく違うことが分かりました。
ただし腸内細菌は人間が食べたモノの残りを食べて生きているので、肥満の人が食べがちな食品のせいで組成が変わっただけとも考えられます。

そこで太った人・痩せた人の腸内細菌を採取し、マウスに移植してみました。
2つのグループを同じ食事、同じ運動量に固定して飼育しても、細菌のドナーと同じように体型が変化したのです。
つまり食事の影響で細菌バランスは変わりますが、同時に腸内細菌のバランスによって体型も変わる可能性が確認されたのです。

2 ヤセ菌・デブ菌がある?

腸内細菌の種類の大きな括りとして「門」という分類があります。
人間の腸内に生息する菌の分類(門)は大きく以下の4つです。
ほぼ全ての腸内細菌がこれら4つの門のいずれかに属しています。

①ファーミキュティス(フィルミクテス)
②バクテロイデテス
③プロテオバクテリア
④アクチノバクテリア

2-1 具体的な腸内環境の違い

肥満と腸内環境の関係についての議論の中で注目を集めたのが、全体の6割を占めるファーミキュティス門と2割を占めるバクテロイデテス門の2つの門に属する細菌群です。

太った人の腸内細菌ではファーミキュティス門の菌が過剰であり、一方でバクテロイデテス門が占める割合が普通よりも低いことがアメリカの研究で発見されました。
そしてファーミキュティス門の菌が過剰な腸内細菌を痩せたマウスに移植すると、同じ食事を続けても太ることが確認されたのです。

このことからファーミキュティス門の菌が肥満に影響すると考えられるようになります。
そして各種のメディアにおいてファーミキュティス門の菌をデブ菌、バクテロイデテス門の菌をヤセ菌と銘打って取り上げられるようになったのです。

しかしなぜ腸内にいる細菌の種類によって肥満になったり痩せたりするということが起きるのでしょうか?
続いてはこの説を提唱する学者が考えるデブ菌・ヤセ菌が体型に作用するメカニズムについて解説します。

2-2 なぜ菌の影響で太る?

腸内細菌はほとんどが大腸、つまり消化管の最後に住んでて、そこまで吸収されなかった食べ物の残り物をエサにしています。

善玉菌の食事の結果が発酵、悪玉菌の食事の結果が腐敗と言われますが、ここで注目すべきは発酵の方です。
発酵の結果として生じる物質の中で特に重要なのが短鎖脂肪酸と言われる物質です。
この短鎖脂肪酸は腸内のぜん動運動を活発にしたり、バリアになる粘膜の生成をしたりプラスの働きをします。

普段ぼくたちが食事で摂るのが鎖脂肪酸、ダイエットで話題のMCTオイルは鎖脂肪酸、つまり名前から分かる通り、脂質の仲間です。
つまりカロリーがないはずの食物繊維でも腸内細菌の働きによって脂質としてのカロリーが発生するのです。
また短鎖脂肪酸は食欲の抑制に働くPYYやGLP-1などのホルモン分泌を減らすので、カロリー吸収を進める可能性が指摘されました。

この短鎖脂肪酸が主にファーミキュティス門の菌によって産生されるため、デブ菌であると推測されたのです。
食欲を刺激して人間に沢山のモノを食べさせた方が腸内細菌のエサも増えるので、細菌の生存戦略としては合理的なので、一理ありそうです。

3 ヤセ菌・デブ菌信仰の問題

ここから「ヤセ菌を育ててデブ菌を減らそう!」的な報道がされるようになりましたが、これはちょっと注意しなければいけません。
というのもこの説には以下に掲げる2つの大きな問題があるからです。

①どうやってデブ菌を減らすのか?
②全く真逆の結果を示す研究の存在

3-1 そもそもどう減らすのか?

まず第一の問題として、そもそもどうやってヤセ菌を増やして、デブ菌を減らすのか、その方法が不明です。

ヤセ菌・デブ菌信者の医者の解説では食物繊維や発酵食品を増やして、タンパク質や脂質の多い食事は抑えることが推奨されます。
しかし腸内細菌は食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸を作るので、この対策では逆にデブ菌の活動を応援することになりそうです。

では真逆の高タンパク、高脂質の食事が良いかと言えばそんなわけはありません。
そんな食事を続けている欧米人に肥満者が多いことからも、間違いなのは明らかです。
つまりメディアや学者は悪玉菌とデブ菌を混同してしまってるわけです。

ではどうすればデブ菌を退治できるのか?
端的に言えばそんなことを実現する方法は存在しません。
よほど特殊な薬剤でも使わない限り、特定の菌種だけを狙って減らすことなど不可能でしょう。

3-2 ファーミキュティス門犯人説に疑問

そして第二にファーミキュティス門が肥満の原因であるというデブ菌説それ自体にも疑問があります。
と言うのも実は別の研究では全く真逆の結果が観察されているからです。
バクテロイデテス門の菌が多くてファーミキュティス門の菌が少ない細菌叢を持つ人が肥満であるというパターンも存在が確認されています。
つまりヤセ菌と言われるバクテロイデテス門の菌を増やせば痩せるというわけでもないってことです。

じゃあ結局は何が原因なの…?

これら2つの矛盾するように見える研究結果から分かることは、特定の菌ではなくバランスの崩れ自体が問題ということです。
菌種によって食べる(発酵させる)栄養素が異なるので、細菌バランスが崩れると特定の短鎖脂肪酸しか生成されなくなります。
この偏りが代謝の低下や食欲の増進、エネルギー吸収効率の上昇など好ましくない作用に繋がるという見方です。
実際にプレバイオティクスやプロバイオティクスによって腸内細菌のバランスを改善すると肥満も改善したという研究もあります。

3-3 結局やるべきは基本的なこと

ハッキリと言ってしまえばデブ菌やヤセ菌などは存在しません。
それらのバランスが崩れた腸内細菌が全体として肥満の原因になるということです。

ことダイエットにおいては特に裏技的な極端な方法に魅力を感じがちですが、どこかを極端にすれば全体のバランスが崩れます。
腸内細菌に起因する肥満という今回の話がまさにバランスの重要性を認識するのにうってつけのテーマです。

ここまで分かってしまえばやることは非常にシンプルになります。
それは先程デブ菌を減らすためにやれと医者が言っていたことと同じ、すなわちプロバイオティクス・プレバイオティクスを摂取せよということです。
似たような名前なのでこれらを同じものだと勘違いしてる人も多いようですが、これら2つは全く異なります。
それぞれの意味や摂取の仕方について詳しくはこちらのページで解説してるので、参考にしてください。

4 欧米食は二重の意味で肥満の原因

欧米食が肥満の原因だと言えば、「高脂質・高タンパク・高カロリーなんだから当たり前だろ」と思うでしょう。
ただここで言う欧米食と肥満の関係はカロリーではなく腸内環境との関係です。
欧米食は腸に以下のような影響を与えます。

①腸内細菌の過剰な殺菌 ②腸内毒素の過剰な産生 ③リーキーガット

脂質を多量に摂取すると消化酵素の胆汁が過剰に分泌されます。
この胆汁が腸内で分解されて出来る二次胆汁酸には殺菌作用があり、適正な量なら腸内での菌の過剰繁殖を抑えるのに効果的です。
しかし高脂肪食のせいで過剰に二次胆汁酸が生成されると腸内細菌を殺し過ぎてしまいます。
そうすると生き残った菌が過剰に繁殖し、腸内細菌のバランスが崩れてしまうのです。

そして高タンパク質の食事で吸収されずにあまったタンパク質は悪玉菌のエサとなり、増殖を促すと同時にインドールスカトールアンモニアなどの腸内毒素を過剰に生成してしまいます。

さらに食物繊維が不足すると短鎖脂肪酸の産生量が少なくなり、外敵に対して関所の役割をする粘膜の生成が少なくなります。
しかもエサ(食物繊維)が足りずに飢えた善玉菌が粘膜を食べてしまうので、粘膜減少にさらに拍車がかかるのです。
こうして粘膜が薄くなってできた細胞の隙間から未消化の食べ物や細菌、細菌が作った有毒物質が漏れ出し、血管を通って全身を巡ります。

これをリーキーガット(漏れる腸)って言うよ

これらの現象は全て肥満(をはじめとした様々な問題)の原因になります。
中でも腸内毒素の過剰生成とリーキーガットは大きな問題です。

腸内のグラム陰性菌が作るLPS(リポポリサッカライド)という物質が血中に漏れて肝臓を攻撃することで、体脂肪の代謝能を低下させてしまうからです。
肥満の患者の血中からは健康な人とは比べ物にならないほど多量のLPSが検出されるため、この影響はほぼ確実と考えられます。

まとめ

腸内環境の悪化と肥満の関係について解説しました。
デブ菌・ヤセ菌説は非常にインパクトがあったので、腸内細菌と肥満には関係があるらしいことを知っていた人は多いかもしれません。
しかし特定の菌種が肥満の原因になるというのはかなり短絡的な判断であり、実際には全体的なバランスの乱れそのものが原因です。
その問題を解決するには、プロバイオティクスやプレバイオティクスを摂取してバランスを調整していくしかありません。

腸内環境を乱す習慣は様々ですが、肥満との関係において特に重要なのは食生活です。
高脂質・高タンパク・高カロリーな欧米食は腸内をあらゆる方面から乱し、肥満に導いていきます。
完全にカットするのが苦痛という人もいるかもしれませんが、せめて適量に減らすくらいはした方が良いでしょう。
てなとこで。