【腸脳相関とは】腸内環境と脳の不思議な関係|細菌が性格やメンタルを作る?

腸内環境の不調が全身に様々な影響を及ぼすことが知られ、腸活ブームが巻き起こっています。
身体の健康に腸内環境が影響するのは理解に苦しまないと思います。
では脳機能やメンタルなど心の健康にまで影響すると言われたら信じられるでしょうか?
近年の研究でメンタルや性格、行動特性にまで腸内環境が影響する可能性が示唆されています。

このページでわかること

・腸内環境が影響する脳の機能や疾患
・メンタルに腸が影響するメカニズム

1 腸と脳の不思議な関係

緊張するとお腹が痛くなるというのは誰しも経験したことがあるでしょう。
このように中枢(脳)の変化が末梢(腸などの器官)に影響を及ぼす経路を遠心性神経と言います。

しかし腸と脳の関係はその逆の求心性神経の影響も大きい可能性があるのです。
つまり末梢(腸)で起きた変化が中枢(脳)に影響するってことで、実際に緊張しいな人もお腹を温めることで緊張感が和らぐと言われています。
この双方向の影響関係を脳腸相関(脳腸軸)と言います。

腸の専門家は腸の重要性を強調して腸脳相関って言ったりもするね

脳は腸神経系と数億個とも言われる膨大な数のニューロンで繋がっており、その状態について絶えずやり取りをしていると言われます。
このように両者の関係は非常に密接なのです。

2 慣用句にもヒントがある

「腹を立てる」「腑(腹)に落ちる」「腹黒い」など、思考に関係する慣用句に「腹」が使われますよね?
このことから「昔の人も無意識に脳と腸の関係を知っていたのでは?」という主張もあるくらいです。

しかもこの脳と腸の関係を表す言い回しは日本語の慣用句だけでなく、英語の表現にもあります。
gut feeling(腸の感覚)で「直感」、go with your gut(腸に従え)で「自分の思った通りやりなさい」など。
どうやらこの感覚は万国共通のようですね。

3 腸だけで生きられる

原始的な生き物には脳はありませんでしたが、腸はありました。
そう、身近で最も重要な器官に思えますが、実は脳が無くても十分生られるのです。
一番分かりやすい例と言えば、未だに原始的な姿を保って腸だけで生きてるミミズでしょう。

実際に腸を含めた消化管の機能は脳とは独立した自律神経のうちの副交感神経の影響下にあります。
つまり極端な話をすれば脳死状態になったとしても消化機能は維持され、勝手に活動できるのです。
実際に脳と腸は迷走神経を通じてやり取りしてますが、この神経を切っても腸を含めた消化管は活動を続けます。

今でこそ大きな顔をしてる脳ですが、生き物の進化の視点で見ると後付けで、元から存在していた腸が脳に影響を与えても何の不思議もないってことです。
腸は「第二の脳」なんて言われますが、腸からしたらこの評価は不服、まさに「立腹」かもしれませんね。

4 腸が脳に与える影響

では具体的に腸が脳や思考にどのような影響を与えているのかを見ていきましょう。
以下のような部分に腸内環境が関係していると言われています。

①性格 ②メンタルヘルス ③認知機能 ④自閉症

4-1 腸内フローラが行動パターンに与える影響

腸内細菌の様相がお花畑のように見えることから腸内フローラと言います。
腸内環境の状態とほぼイコールと考えてもらって差し支えありません。
そしてこの腸内フローラが生き物の性格や行動パターンに影響すると言われているのです。

研究によって腸内細菌を持たない無菌マウスは通常のマウスより勇敢になることが確認されています。
周囲の環境に怯えることなく、果敢に周囲の状況を探っていくのです。
これは一見良いことのように思えますが、生存戦略で考えれば外敵に狙われやすいかなり不利な性格でありとても正常な状態とは言えません。
そこで一般的なマウスの腸内細菌を移植すると、ちゃんと警戒心を取り戻すことが確認されたのです。

また別の実験で、不安行動の多い内向的なマウスと外交的なマウスを用意しました。
高い台から飛び降りるのにかかる時間を計測すると、外交的なマウスは圧倒的に早く、内向的なマウスはその何倍も時間をかけます。

この2種類のマウスの腸内細菌をお互いに移植すると、元々は外交的だったマウスは降りるのに掛ける時間が1分近く延びるようになりました。
逆に元々は内向的だったはずのマウスは飛び降りるのにかかる時間が1分以上短くなったのです。

あくまでマウス実験ですが、このような研究の結果から何がしかの繋がりによって腸内細菌のバランスが思考や行動パターンに影響を与えていると考えられます。

4-2 鬱と腸内細菌の関係

性格や思考に腸内細菌が影響を与えることから、脳やメンタルの問題と考えられやすい症状でも腸にスポットが当たっています。

ストレスフルな現代において、より身近な問題になりつつある鬱でも腸内フローラの乱れが起きています。
具体的には鬱患者の腸内では善玉菌の代表であるビフィズス菌は通常の3分の1に、乳酸菌は5分の1にまで減少していたのです。

ビフィズス菌は健常100億に対して32億、乳酸菌は健常398万に対して79万だったよ

またコプロッカス属やディリアスター属といった特定の菌が少ないことも別の研究で確認されています。
そして鬱患者では同じく現代病になりつつある過敏性腸症候群(IBS)の発症リスクが通常の3倍近くにもなります(12%→33%)
(参考:国立精神・神経医療研究センター、ヤクルト本社中央研究所)

鬱になったから腸内環境が乱れただけじゃないの?

確かにこれだけだとどちらが先に影響したのかは分かりません。いわゆるニワトリ/卵の問題です。
メンタルの問題と考えられやすいので、あくまで遠心性神経(脳→腸)の影響で腸内環境が変化しただけの可能性もあるでしょう。

ただ鬱を発症したマウスの腸内細菌を健康なマウスに移植すると、健康なマウスも鬱の症状を呈するようになることも研究で確認されています。
また細菌の不足を補うためにプロバイオティクスを投与することで症状が軽くなることも確認されています。
つまり求心性神経(腸→脳)の影響も十分に考えられるということです。
(参考:Flemish Gut Flora Project)

4-3 腸内環境で記憶力が変わる?認知症との関係

無菌環境で育ったマウスには記憶障害の症状が見られることが実験で確認されています。

無菌のマウスと通常のマウスにそれぞれ初めて見る2つのモノ(AとB)を5分間与えた後、それらを取り除いて20分おき、次に先程のAとマウスが初めて見るCを檻に入れます。
20分前にAを見た記憶が残っていれば、目新しいCの方により興味を示すはずです。
通常のマウスは予想通りCに興味津々でしたが、無菌マウスの方はどちらも初見かのように同じだけ入念に調べました。
ここから腸内細菌が宿主の記憶力に影響してることが推測でき、認知症にも何らかの関係が考えられるのです。

認知症ではバクテロイデテス門の菌が減少し、クロストリジウムやルミノコッカスなどの菌が増殖してる傾向があります。
その腸内細菌の乱れがインドールや4EPSなど尿毒症に関係する物質の異常生成に繋がっています。
腸内フローラの乱れからリーキーガットが起こり、異常生成されたこれらの有毒物質が脳に到達することで記憶に影響してる可能性もあるでしょう。

これもニワトリ/卵の問題がありますが、研究によって求心性神経の影響も確認されています。
認知症患者を対象に12週間プロバイオティクス牛乳か普通の牛乳を摂取してもらい、MMSEという認知機能テストの成績変化を追跡しました。
プロバイオティクス牛乳を摂取している群のみで期間を追うごとに成績が有意にアップしたということです。

4-4 自閉症でも腸内環境に異変

自閉症、正確には自閉症スペクトラム(ASD)においても腸内環境に異常があることが確認されています。
脳と腸の関係に注目が集まる前から、自閉症の人は便秘傾向が強いことに気付いてる人はいました。
また鬱の場合と同じく過敏性腸症候群を抱えてる人も多い傾向があり、腸内細菌との関係に注目されてます。

鬱の研究と同じく無菌マウスにASDマウスの腸内細菌を移植すると、自閉症の特徴的な行動が発現するのも確認されています。
さらにASDの腸内細菌を移植されたマウス同士から生まれた子供の成長過程を追うと、①反復行動や②自発性・社会性の低下などASDの特徴を同様に呈したとのことです。

ASD患者は血中から4EPSなどの腸内細菌毒素が通常の40倍以上も検出されることが分かっています。

つまりリーキーガット症候群も発症してる可能性が高いってことだね

自閉症の原因は明確にされていませんが、感染症の罹患をきっかけに発症することが多く、抗生物質による腸内フローラの攪乱も一因の可能性があると言えます。

また別の研究では破傷風菌などが腸内に侵入して産生する神経毒がリーキーガットなどで漏れ出し、脳内の神経伝達物質を阻害することを要因として挙げています。
実際に破傷風菌が作る神経毒を脳に少量投与されたマウスでは自閉症的な行動パターンが現れたのです。
そして破傷風の殺菌に効果を発揮するヴァンコマイシン(VM)という下痢の治療薬の投与によって症状の改善が見られました。

ASD患者の腸内細菌の構成を解析すると、バクテロイデテス門(30%→51%)やプロテオバクテリア門(0.5%→3%)の比率が高い。
そしてファーミキュティス門(64%→38%)やアクチノバクテリア門(2%→0.5%)はその比率が大きく下がっています。
またプロバイオティクスの投与によって症状が改善するとの報告もあり、腸内環境と自閉症にも関係があると言えるでしょう。
(参考: Bolte ER. 1998. Autism and Clostridium tetani  Finegold SM. 2011. Desulfovibrio species are potentially important in regressive autism 社会医療法人厚生会木沢記念病院中央検査センター)

5 なぜ腸内細菌がメンタルに影響するのか?

普段の気分や行動パターンから認知症や自閉症といった疾患まで、腸内環境が広く影響するのは何故でしょうか?
それはいずれも腸内で作られる様々な神経伝達物質の影響と考えられています。

5-1 脳にプラスの神経伝達物質

腸内細菌はセロトニンやガンマアミノ酪酸(GABA)、ドーパミンなどを生成します。
これらはモノアミン神経伝達物質と言われるもので、気分や精神の安定・鎮静作用、そして快感や意欲などに関係するものです。
中でも「幸せホルモン」ことセロトニンは実に身体全体の80~90%が腸内で生成されていて、その影響を指摘する人もいます。

とは言え腸由来のセロトニンは脳内に到達することができないとするのが研究者の間では通説となっており、この可能性は高くありません。
ただし睡眠の質に影響する物質でもあり、ホルモン分泌の調整や脳機能などに腸が間接的に関わっている可能性はあります。

また運動すると頭が良くなるでおなじみのBDNF(脳由来神経栄養因子)も要因の1つです。
このBDNFは脳内でも特に海馬の神経細胞の増殖に関わっており、その海馬は前頭葉とともに感情のコントロールに働きます。
そのためBDNFが不足すると海馬のブレーキ機能が低下し、鬱や統合失調症、強迫性障害悪化させる可能性があるのです。
そしてこのBDNFの生成にも腸内細菌が関わっていることが移植実験で確認されています。

5-2 脳に悪い神経伝達物質

また悪い面でも腸内で発生する神経伝達物質は脳に影響します。
自閉症のところで出てきたように腸内の悪玉菌が産生するフェノール類やインドールなどは神経毒であり、中枢神経にダメージを与えます。
つまり腸内環境の悪化は脳にプラスの働きをする物質の生成を低下させ、同時に悪さをする物質を増やしてしまうのです。

またリーキーガット症候群などによって漏れ出た毒素が血管を通じて全身を巡り、直接的に脳を攻撃している可能性もあります。
これは腸内環境の悪化と慢性的な疲労感・倦怠感との関係で解説した内容に近いものです。
詳しくはこちらのページを参考にしてください。

リーキーガットについても解説してるよ

まとめ

腸内環境の悪化がメンタルや脳機能に与える影響について解説しました。
不安症や鬱などメンタルは脳に対して影響の大きそうなストレスの問題と考えられがちです。
ストレスは誰もが自覚しているし、直感的で納得しやすいでしょう。
認知症なども同様です。

確かにストレスの影響が皆無というわけではありませんが、ここで紹介したように腸内環境とも密接に関わっています。
脳中心での考えの方が馴染みがあるため鬱や認知機能の低下が先で、腸内環境の悪化が後だと思いたくなるのも無理はありません。
しかし腸内環境を悪化させることで脳の不調が生じることが様々な研究で確認されています。
腸から脳への一方通行とまでは言いませんが、双方向の関係があると考える方が自然です。

自閉症はさておき、メンタルの不調や認知機能の低下は誰にも起こり得る身近な症状です。
自分でコントロールが効く腸内環境が影響してる可能性というのはむしろプラスの情報ではないでしょうか?
「仕方ないことだ」とただ待つのではなく、今から能動的に腸内環境を悪化させる習慣を取り除いておくことも重要です。
これらの対策については別のページで解説してるので、そちらも参考にしてください。
てなとこで。